2008年5月23日金曜日

ロシアと天燃ガス3:最大輸出国ロシア


 ロシアと天燃ガス3:最大輸出国ロシア
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 では、いよいよプーチンに巨額の富をもたらした、「ロシアの天然ガス」を見てみます。

 世界の埋蔵量を「BP統計資料2004」で見てみます。

★ 社団法人日本ガス協会
☆ http://www.gas.or.jp/default.html

中東_______________71.7__
ロシア______________47.0__
アフリカ_____________13.8__
アジア・オセアニア______13.4__
西欧・東欧・中央アジア___15.3__
北アメリカ____________7.3__
南アメリカ____________7.2__
日本_______________0.04__
その他
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___合計___________176 兆m3___


 ロシアが世界の埋蔵量の「27%」を占めている。
 いかにすごいかが、これだけでわかります。

次に地域別の年間生産量と消費量を促進センターの「天然ガスの生産量と消費量」で見てみます。


__地域別__________生産量(%)____消費量(%)____差分
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旧ソ連・東欧_______8,384 (30%)_____6,492 (24%)____+1,892
西欧____________2,912 (10.5%)____4,726 (17%)_____-1,814
中東____________2,912 (10.5%)____2,510 (9%)_____+402
アジア・オセアニア___3,314 (12%)______4,069 (15%)____-755
北米____________7,582 (27%)_____7,745 (28%)____-163
中南米__________1,360 (5%)______1,240 (4.5%)____+120
アフリカ__________1,409 (5%)_______712 (2.5%)____+695
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合 計__________27,873億m3_____27,494億m3__


 このうちロシアは「1,516億m3」を輸出している。
 この量は日本の輸入分の「756億m3」のちょうど2倍に当たる。
 このうちの90%にあたる分の「1,400億m3」がドイツとフランスの輸入量に相当する。

 単純にいうと、ロシアの天然ガスの剰余分がそっくり西欧にパイプラインで供給されており、その売り上げ税収が国家に入ることになる。
 その額、ロシアの「国家税収の約25%」。

 目の前に、何の努力もなく山と積まれたオカネがあれば濡れ手でアワになる。
 手を握らないやつはいない。
 「ワイロ、みんなでやれば怖くない」
 やるな、といっても無理な話になる。

 世界ナンバーワンの天然ガス輸出国は当然ロシア:21%。
 以下カナダ:14%、ノルウエイ:11%、アルジェリア:9%である。
 ロシアはカナダの1.5倍になる。
 オランダは2.4%輸入して、6.5%輸出しており、差し引き4.1%の輸出。
 インドネシア:4.4%、マレーシア:4.0%、カタール:3.8%、となる。

 注目すべきはノルウエイとオランダで、天然ガスを輸出していることである。

それぞれWikipediaでみてみる。

 ノルウエイ
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OPEC(石油輸出国機構)加盟国ではないノルウェーはロシア、サウジアラビアに次ぐ世界第3の原油輸出国であり、原油はノルウェーの輸出の35% (1999年)を占める。

 北海における石油採掘は国有割合の高い企業(例えばスタートオイル社では発行株式の8割以上を国が保有)によって行われており、福祉国家ノルウェーの財政に大きく寄与している。

 さらに将来の石油・天然ガスの枯渇に備えて、原油売上による収益は原則として(2006年度予算では74%、 2571億クローネ)「政府年金基金」として積み立てられ(2006年1月に従来の石油基金と年金基金が統合改組された)、国際的な金融市場に投資されている。

 国家財政収支は石油以外の歳入だけで均衡するよう、歳出抑制策を実施しているが、なお石油基金からの繰り入れが大きな割合を占めている(2006年度予算では歳入9339億クローネ、うち石油から3483億クローネ、石油以外から5856億クローネ、歳出は6768億クローネ)。



 オランダ
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 オランダの鉱業は天然ガス、石油、岩塩があるが、天然ガスを除きいずれも小規模である。

 「天然ガス」は1940年代、北部フローニンゲン州で豊富な天然ガス田が発見されて以来、生産量の「50%」程度がドイツ、ベルギーなどへ輸出され、貴重な外貨収入となっている。

 60年にフローニンゲン州のスロホテレン地区に発見された天然ガスの確認された埋蔵量は「1兆6000億立方メートル」で西ヨーロッパの総埋蔵量の「約半分」に当たる。

 電力は石炭・ガスまたは石油による火力発電により、その年間消費量は77年に565キロワット時になっている。

 精油所はロッテルダム地区に5つ、アムステルダムに1つあり、オランダは67年にはヨーロッパで最も重要な石油製品の輸出国になった。



 これらの天然ガスの経路についてはヨーロッパ全土に張り巡らされたパイプラインを、下記のホームページで見ることができます。

★ [PDF].ヨーロッパ:エネルギー戦略の見直し
☆ http://www.ett.gr.jp/energy/pdf/2_40.pdf


 これでみると、プーチン・ロシアは天然ガス供給のパイプラインで、「ヨーロッパの首根っこ」を抑えていることになる。
 その実例が以下のニュース群。

★ CNN.co.jp 2008.03.05
☆ http://www.cnn.co.jp/business/CNN200803050041.html

 ウクライナ、欧州向け天然ガス供給を削減とロシアに警告
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 ロシア国営の天然ガス独占企業ガスプロムは、ウクライナ国営のナフトガスが、
 「欧州向けの天然ガス供給を削減する」
との警告を4日に電報で送ってきた、と明らかにした。

 ガスプロムは、ウクライナがガス代金を支払わないことから、3日から4日にかけてウクライナ向けのガス供給を総量で「50%削減」したばかり。

 欧州向けの供給削減警告を受け、ウクライナが欧州向けの供給を削減すると警告したと見られる。
 ロシアからの欧州向けパイプラインは、ウクライナを経由している。

 両国は「2006年」にもガス輸出代金で対立、ロシアは一時、供給を停止したことがある。


★ 東京新聞 2008.03.06
☆ http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008030602093041.html

 ウクライナ向け天然ガス ロシア、一時供給半減
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 ロシアの政府系天然ガス独占企業「ガスプロム」は四日、ウクライナが債務支払いに応じないとして天然ガス供給を半減させることを決めた。
 しかし同社は五日、ウクライナ側と供給正常化で合意したと述べた。

 ガスプロムは「メドベージェフ次期大統領」が会長を兼任しており、次期政権でもエネルギー資源を武器にした周辺国への強硬姿勢を継続させる姿勢を見せつけた格好だ。

 これより先、ウクライナ側は、ガスプロムが同国経由で欧州向けに供給している天然ガス供給を約17%削減すると警告。
 2006年1月に続いてガス紛争が再燃することに欧州側の懸念も高まっていた。

 ウクライナの親欧米姿勢に反発する「プーチン政権」は、2006年初めに同国へのガス供給を一時停止し、「厳寒の欧州への供給も停止」され、大混乱をもたらした。

 さらに昨年10月には、対ロ批判の急先鋒(せんぽう)、ティモシェンコ氏の首相返り咲きの直前にも、ガス供給停止を警告するなど、天然ガスを政治的圧力に用いた露骨な揺さぶりをかけていた。



 ここで話題になっているロシアとウクライナの関係をWokipediaで見てみましょう。

 ロシアは、ソ連時代に東欧から西欧にかけて一大パイプライン輸送網を構築、大量に産出される天然ガスを各国に輸出している。
 特に、ウクライナを含む独立国家共同体諸国に対しては、歴史的な経緯から欧州諸国に比して割安な価格で供給していた。
 ただし、ウクライナ向けガス価格は、パイプライン輸送料とのバーター決済の価格指標として機能していたに過ぎず、この価格で販売されていたわけではない点に留意が必要である。

 2004年にウクライナで、オレンジ革命が発生。
 新政権が、親欧米の立場を鮮明にした。

 2005年4月:ガスプロム社とウクライナ政府が、ガス供給に関する契約更改交渉を実施。
 1,000立方メートルあたり現行「50.0ドル」から改訂後「160.0ドル」(後に交渉過程で「230.0ドル」に上昇)へ大幅な上昇を伴う料金改定が提示されたことから、交渉は紛糾状態となる。

 2006年:ガスプロム社がウクライナ向けのガス供給を停止。
 ただし、ウクライナ向けのガス供給は、対欧州連合諸国向けと同じパイプラインで行われていたため、EU諸国向けの供給量からウクライナ向けの供給量の「30%削減」する形で行われた。
 ウクライナ側は、これを無視する形でガスの取得を続行。

 そのため、たちまちパイプライン末端にある欧州連合諸国へ提供されるガス圧は低下し、各国は大混乱となった。
 もはや二国間の問題ではおさまらず、国際問題となったことから、両者は急速に歩み寄りを見せ、1月4日に「95ドル」の価格設定で供給を再開する妥協をみた。

 ウクライナ経由でガス供給を受けている中欧や西欧諸国は影響を被ったが、当のウクライナの市民生活には大きな影響は出なかった。
 これは、公式にはウクライナが天然ガス地下貯蔵庫から天然ガスを汲み出したこと、産業に利用制限を課して市民向けに優先的に廻したためと説明されているが、欧州諸国向けのガスも抜き取ったためと言われている。

 ウクライナへのガス供給が停止すると真っ先に深刻な「影響を被るのはEU諸国」であるということが判明したため、今後の各国は対応に迫られている。

 ウクライナを迂回してヨーロッパに天然ガスを供給する「北ヨーロッパ天然ガスパイプライン」建設にも拍車がかかるものと見られる。


 そのロシアの企業を見てみましょう。
下記のホームページから一部を抜粋コピーさせていただきます。

★  FX The Gate  欧州財閥の系譜 ロシア財閥 天然ガス
☆ http://fxthegate.com/2008/01/48_24.html

 エネルギー企業が増収増益を続けていることから新富裕層が誕生しているロシア。
 そのロシアが誇る2大巨大企業といえば、下記の2社である。

 ①.「ルクオイル」:石油企業
 ②.「ガスプロム」:天然ガスの生産・供給量において「世界最大」の企業

 ガスプロムの取締役会議長(会長)は、大統領府長官を務め、2005年にロシア連邦政府第一副首相に任命された「ドミトリー・メドヴェージェフ」です。
 ソビエト人民代議員機関勤務、大学の非常勤講師を経て、プーチンの顧問を務めるようになります。
有能な行政手腕が高く評価され、2008年実施予定のロシア大統領選挙でプーチンの後継者として指名されるのではないかといわれています。

 ガスプロムの天然ガスの生産高(採掘量)は、ロシアの88%、全世界の約23%に相当。
 埋蔵量は、世界の38%を占めると言われています。
 ロシアの「国家税収の約25%」を占め、採掘、生産、から供給、販売までを独占しています。

 この優良企業ガスプロムの時価総額は、昨年末から今年1月にかけて、BPやロイヤル・ダッチ・シェルを追い抜く勢いで膨張しました。
 昨年8月、ガスプロムの時価総額は1000億ドル(約11兆円)を超えたばかりであったのに、5ヵ月後の1月には、なんと2倍以上の2168億ドル(約25兆円)に達しました。
 その時点での時価総額は、以下の順位でした。

1位 エクソンモービル
2位 GE
3位 マイクロソフト
4位 シティグループ
5位 BP
6位 ガスプロム

 ガスプロムの時価総額が急激に膨張した理由は、昨年12月23日、ガスプロム株式の外国人保有制限を撤廃する法律にプーチン大統領が署名し、「規制緩和」が進んだことにあります。
 ガスプロムが「国営石油会社ロスネフチ」と共に今後もロシアのエネルギー戦略の中核であり続けることになることは明白です。

 ガスプロム株の「規制緩和」に署名したプーチン大統領は、ガスプロムを世界最大のメジャー(国際石油資本)であるエクソンモービルに匹敵するエネルギー企業にしたいと意向しているのでしょう。
 そして先月4月28日には遂に世界3位のマイクロソフトの時価総額を追い抜き、時価総額で世界第3位となりました。
 同日、ガスプロムの時価総額は2700 億ドルになり、同日株価を下げたマイクロソフトの時価総額2460億ドルをガスプロムが抜き、ガスプロムは世界3位の企業となったのです。

 同日時点での株式時価総額世界トップ4は以下です。

1位 エクソンモービル(3810億ドル)
2位 GE(3580億ドル)
3位 ガスプロム(2700億ドル)
4位 マイクロソフト(2460億ドル)

 プーチンが目指しているのは、エクソンモービルに匹敵するロシアンメジャーの誕生です。

 ロスネフチは今年の夏から秋頃に史上最大規模の株式公開を実施する予定です。
 仮にですが、ロスネフチの株式公開後に、ガスプロムとロスネフチが合併したら、エクソンモービルを超える時価総額世界最大のエネルギー企業が生まれることになります。


 「ガスブロム」という会社は日本ではまるで馴染みのない会社ですが、ヨーロッパでは最大級の会社の一つということであり、世界的なマイクロソフトをすでに抜いているということです。
 プーチンの個人資産が、ビル・ゲイツを超えているというのも、そういう話を聞くとなんとなく納得してしまうような気になってしまうから不思議です。


 【余談を少々】

 没頭で石油は「約70年」分、天燃ガスは「約100年」分あるという石油鉱業連盟の発表を載せました。
 その差は約30年あります。
 よって、石油が使えなくなって、さらに一世代は天然ガスがエネルギー保障をしてくれると書きました。

 しかし、果たしてそうなるでしょうか。
 個人的な考えですが、「天然ガス枯渇」の方が先にくるように思えるのです。

 というのは、先の「石油枯渇」の稿でみたようにオイルピークを過ぎると、生産国は石油の生産にブレーキをかけはじめます。

 実際、オイル価格は昨日「$135」の「ストップ高」を記録しました。
 OPECは増産の意志のないことを表明しています。

 ということは、中東産油国の「2010年対策」が発動され、効果をあらわし始めているということになります。

 「虎の子の財産」ですので、できるだけ長持ちさせようと、小出しにし始めています。
 言い換えると、タンスの底にしまっておいた宝石を、一つ一つ出しては売り、出しては売って生活しようという方向にむかっています。
 そこには「石油は目に見える貴重な財産」である、という意識があります。

 それに対して天然ガスは気体であり流動性が高く「目に見える」ということがありません。
 「掴めない」という分、見えない分、財産としての意識が希薄になるはずです。
 とすれば偶然にも運よく地下から吹き出してくれた「お金になるクウキ」といった発想になります。

 宝石のような財産ならタンスの底にしまいこんでおこうという感覚になりますが、クウキは在庫でもっていてもしかたがない、まして大気より軽いガスだ、ほっておいたら空の向こうへ消えてしまうことにもなりかねない、と思う気持ちが出てくる。

 売れるときに売ってしまおう、お金に換えてしまおう、という判断になりやすくなります。
 そして枯渇したとしても、「損した」という発想にはなりにくく、とりあえずお金にできて「うまく儲けた」ということになります。

 ということから、「エネルギー価格高騰」によって天然ガス採掘が「コストにあう」となれば、あらゆる場所を採掘し、「なくなるまで」掘り出すということになるでしょう。

さらに、今はまるでダメとみられ、海のものとも山のものとも分からないほとんど見通しのたたないメタンハイドレートが来世紀のエネルギーになると宣伝されれば、天然ガスと同じメタンガスであるため、コスト的に使い物にならないモノでも天然ガスの後継者と思われてしまい、天然ガスを使い切っても、まだメタンハイドレートがあるさ、という心理になりえます。

 石油の場合はストックをなるべく多く持とうという心理が働きますが、天然ガスの場合は「トコトン掘り尽そう」となるはずです。
 枯渇したとしても「採れただけめっけもの」で、貴重な財産を失ったとは思えず、「もーけ」で終わってしまうことになります。

 よって天然ガスは隅から隅まで採掘される可能性が高く、一度採掘の手が入れば枯渇するまで永遠に採掘され続けるという運命を持っているのではないかと思われるのです。
 ならば30年という差があったとしても、「保存に動く石油」よりも、クウキとして認識され、カラッポになるまで「採掘し尽くされる天然ガス」のほうが、より早く枯渇の時期を迎えそうな気がしてならないのです。

 石油は来世紀まで持ちこたえると思われますが、削減されたその代替分として天然ガスが今世紀のエネルギーとして消費されるのではないかと思えるのです。

 2038年までの近未来をみてみれば、都市部での4WDは消えていく。
 一般車両はハイブリッド化する。
 その技術についていけなかったメーカーは天然ガス車に命運をかけることになる。
 ガソリンスタンドは「天然ガススタンド」となり、天然ガス車両が一気に普及する。
 ハイブリッド自体も天然ガスエンジンを積むようになり、ガソリンは巷から消えていく。
 そして、電気自動車の開発が競って行われる。
 といったことになるように思われるのです。

 これはあくまで私見です。




<つづく>




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